呼ばれていたね~という旅のことを思い出していた。
その日は、いっしょに行くことになっていたひととはぐれて、しかしそのひとはそんなに行きたがっていなかった。わたしひとりで行った。山に。
わたしは目が悪くて、メガネを忘れていることに気がついたけど、かまわない、という気がした。とにかく、行く。
ケーブルカーが工事しているとかで、人はまばら。山にしがみつくように、かいだんにもへばりつくように、登りまして、参拝いたしまして、下りてきた。山が、おつかまりなさいといっているように、ほいほいとわたしをはこんでいるように感じた。体が丸ごと浄化されたようなたいけんだった。その山道で、野生の鹿もいて、その日は、そういう日。
見えるかどおかに不自由しなかった。触覚もつかって、山といったいになって、登った。素手で、ふいにさわったコケが、やさしくてやわらかくて、鮮烈に、コケの生命とふれた、と思った。
こどものころのからだかんかくが、よみがえっていた。のびやかにあそぶようにからだをつかっていたよね。
山は、わたしを招いて、ヒントをくださったのかも。ありがたい。